安全・安心研究センター 広瀬弘忠のブログ

2月27日15時34分発生のチリ地震(M,8.8)に起因する津波で、日本の気象庁は17年ぶりの大津波警報を発表した。3月1日、記者会見で気象庁は、関田康雄地震・津波監視課長が「津波の予測が過大だった。警報が長引き迷惑をかけたことをおわびしたい」と謝罪した。この謝罪に対して、前報に述べたように政府もメディアも寛容で、世論も過小よりも過大に振れることは許容されるべきだとして、用心深いにこしたことはない、という反応を示している。そして、その一方で、予測は正確であるべきだし、過大な予測にもとづいて警報を出すべきではないという意見に批判的であるようだ。しかし、前報でも指摘したように、“空振り”にはコストがともなうのである。アメリカ大洋大気象の太平洋津波センターも、チリ地震による太平洋沿岸地域の被害はそれほど大きなものにならないとするアメリカの津波研究者グループの予測を承知したうえで、より安全重視のスタンスから津波警報を出していたわけだ。だが、その慎重な姿勢を示した太平洋津波警報センターが、太平洋沿岸全域の津波警報を解除したあとも、その後8時間半にもわたり気象庁の津波警報は維持され、そこからさらに7時間後になって、やっと全ての警報と注意報を解除している。
これは明らかに過剰である。この間の経済的、社会的、心理的コストもさることながら、過大な予測にもとづく警報は、われわれには虚報として作用する。今回の警報発表地域における避難指示・避難勧告に従った人々が平均で3.8%と低かったのは、気象庁が科学的な実況報告による説明と説得をしないで、ただ一方的に警報を流していたという安易な姿勢にも、その一因がある。危機意識の低さを論じる前に、警報の発表や避難指示・勧告は、住民に対する危機回避の説得行動だという意識を、気象庁も地方自治体も持つべきなのだ。
3月9日に、気象庁は、今回の津波の予測が過大だったことを受けて、4月から予測システムの改善に乗り出した。これにより、より高い精度の予測にもとづいて警報が出されるようになるだろう。それはぜひとも進めてもらいたいと思うが、同時に警報を出すということがどのような行為なのか、この問題に関しても、十分に検討してもらいたいと思う。一般に、津波警報による避難率は非常に低いのだが、その理由は何かということを追求してもらいたいと思う。単に、住民の意識が低いだけではないはずだ。

EDITOR

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