安全・安心研究センター 広瀬弘忠のブログ

※この対談は2009年5月に行われたものです

 

【インタヴューアー】 患者と接するとき、気を付けておいたほうがいいところがありましたら、教えていただけませんか。

【広瀬】 臨床心理のカウンセリングを例にして話してみましょう。面接の仕方にはいろいろな方法があります。ロジャース法を用いる人がけっこう多いですが、ここでは、相手の言葉を受け入れることが重要です。ひたすら受け入れて、患者が本当は何を不安に思っているかを、患者自らがしゃべり始めるようになることが必要です。最初に治療院を訪れる時は警戒していたり、多分に自分のことを良く見せようとしたり、いろんな人間的要素が働いていて、本当のことを言わないかもしれないですからね。そして、「あの先生なら自分の言っていることを受け入れてくれて、自分のことを理解してくれる」という、一種の信頼関係ができたときに、患者自身が何を求めていて、どういう心身の状況なのかということがわかってくるわけです。

自分を装ったり、うそをつく必要はないことを感じさせる。この本※にも書きましたが、同じ薬でも患者自身が絶対効かない、あるいは効かせないようにしようとすれば、それは効かない。自分の態度を変えてそれを受け入れるとき、初めて効くようになる。同じように、受け入れる側が本当に受け入れるという姿勢を持ったときに、初めてそこに医療者と患者との間のコミュニケーションが成り立ち、良好な医療が行われると思います。

 

 

※心の潜在力 プラシーボ効果 (朝日選書)

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=2585

 

 

【インタヴューアー】 あまり入り過ぎてもいけないですよね。同情してしまうと、むしろ相手に引っ張り込まれてしまうとも聞きます。

【広瀬】 相手にオーバーコミットしちゃいけない。医療者は医療者としての領域があり、患者は患者としての領域がある。その境を越えて、例えば個人的な問題などにかかわってくると、今度は

「あいつ、前にはこんなこと言ったじゃないか」

とか、愛憎関係が出てきたりする。心理療法でも難しいのは、どうしてもそこへ行っちゃうんですね。何回も面接していると相手のことがよく分かってくるものだから、同情が出てきたり、

「あんた、飲みすぎちゃいけないよ」

などと個人的な生活に立ち入ってきたりする。そのうちに、医療者と患者の境界がはっきりしなくなります。

 医療者と患者との関係は、ある意味で君子の交わりのようなもので、淡きこと水のごとし、しかも冷たい水ではない関係だと思います。

【インタヴューアー】 難しいですね。それを体得するためには、われわれどんなことを常日ごろ考えておけばいいでしょうか。

【広瀬】 まず、自身の心理、ほかの人の心理を知る必要があると思います。患者は、いろんな年齢の人がいますし、性別の違いもあります。誠実な態度を持って、相手を理解しようとすることが大切なのではないでしょうか。

続く

EDITOR

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